謎の日本人城主
肉屋の店先で、子牛のレバーに目が留まった。5、6kgはありそうな巨大な塊が、テラテラとおいしそうに光っている。思わず二人分購入。「薄く、薄くね」と頼んだにもかかわらず、すでに肉屋のオジサンは豪快に切ってくれてしまっていた。
付け合わせは簡単に、ジャガイモと人参をゆでて洋からしを付けるとして、ワインはどうするか。そこでハタと思い当たったのが、このワイン。
ブルゴーニュのジュヴレイ・シャンベルタン村で産する赤ワインの2005年ビンテージなのだが、毎年およそ2000本しか作られないうちの貴重な1本なのである。そしてその畑は、ある日本人が所有している。なぜそんなものがウチにあるのかといえば、その人にいただいたのである。
謎めいた人である。何年も前からの知り合いにもかかわらず、どんな人物なのかほとんどわからない。スイスとブルゴーニュの城に住んでいて、自家用機で飛び回って、スキーとハングライダーとフルートの達人で、でも話をしていて、仕事の話題はいっさい出てこない。僕に見せるのは、趣味人としての顔だけなのである。もう60を過ぎていると思われるが、自由で闊達で好奇心旺盛な、素敵な紳士だ。
晩秋の一夜、そのブルゴーニュの城に招待された。
奥様と二人で夕食の準備に取りかかる間、僕は庭の中を走らせてもらう。20分ほど走っても、端にたどり着かずに引き返す。何ヘクタールあるんだか。敷地の裏に滑走路があると教えてくれたので、そちらに回る。原っぱのようなものだろうと思っていたら、全長1500mはあるアスファルト舗装の堂々たるものだった。ここに友人たちが折々、自家用ジェットでやってくるんだそうな・・。
泊めていただいた部屋。ポンペイ遺跡の、貴族の館を模した内装になっている。ここに一人じゃあまりに淋しすぎるので、隣のシングルベッドのおいてある小ぶりの部屋に引っ越した。そちらは、ブルゴーニュの田舎屋風だった。
その夜は、城主の友人夫婦を交えたピアノ、ヴァイオリン、フルート、ギターによる室内楽コンサートが催された。ロココ風装飾のサロンで、聴衆は僕一人。「夢のような」という月並みな表現以外に、この時の気持ちを表す言葉を思いつかない。
そしてセップ茸やブレス鶏の丸焼きが饗された夕食では、ジュヴレイ・シャンベルタンが何本も開けられた。繊細かつ華やかで、呑み疲れることがない。でも城主自身は、ここ数年の出来にいまひとつ満足できていないようだった。
「醸造をお願いしてる家族が、数年前に代替わりしましてね。それ以来、ちょっと品質にばらつきが出るようになったんですよ」。
できれば別の人に代えたいのだが、ブルゴーニュでは生産者の権利が手厚く保護されていて、よほどの過失や悪意が証明されない限り、首にすることはできないのだという。そういう訴訟を専門にしている弁護士がいるというのも、新鮮な話だった。
「熱心で誠実な醸造家がいたら、ぜひ頼みたいんですけどね」。
M師匠、そろそろどうです!
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コメント
あまり、その気にさせないで下さい。ムッシュ。
この質問は家内との関係であまりにもセンシティヴなので、ブログ上では回答を控えさせていただく以外ありません。(こうしている間もどんな返事をするか家内が後ろで目を光らせてるんです。詳細は後ほどメールにて。)
投稿: ミンミン | 2007年12月15日 (土) 19時33分
では、次回のフランス滞在の折り、こっそり(笑)お城に行きましょう。
投稿: ムッシュ柴田 | 2007年12月15日 (土) 19時52分
こんにちは!私は、海野勝の、姪です!生前は、色々お世話になりました!本当に、ありがとうございました!昨年、叔父と、ANAのホテルで、何回か、ランチをしていただけに、未だに、信じられない現状です!病院ヘ、何回も電話電話をし、叔父と会話をしてきました!信じられません!もうすぐ
今年も終わります!
投稿: 根井里恵 | 2019年11月27日 (水) 12時33分